金星
金星には二酸化炭素(CO2)を主成分とし、わずかに窒素を含むが存在する。気圧は非常に高く、で約92気圧(atm)ある(地球での水深920メートルに相当)。地表での気温は約730K(約460℃)に達する。となっている金星地表から雲層(高度45-70km)までの下層大気の温度勾配は、雲層の上端で有効温度になるような乾燥断熱温度勾配にほぼ従っており、高度50km付近では1気圧で約350K(75℃)、55km付近では0.5気圧で約300K(27℃)と、地球よりやや高い程度である。
金星の自転は非常にゆっくりなものである(#自転を参照)が、熱による対流と大気ののため、昼でも夜でも地表の温度にそれほどの差はない。大気上層部の「スーパーローテーション」と呼ばれる4日で金星を一周する高速風が、金星全体へ熱をするのをさらに助けている。
高度45kmから70kmに硫酸(H2SO4)の雲が存在する。このH2SO4の粒は下層で分解して再び雲層に戻るため、地表に届くことはない。雲の最上部では350km/hもの速度で風が吹いているが、地表では時速数kmの風が吹く程度である。しかし金星の大気圧が非常に高いため、地表の構造物に対して強力に風化作用が働く。
2011年、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機「ビーナス・エクスプレス」が大気の上層からオゾン層を発見した。2012年、ビーナス・エクスプレスの5年分のデータを解析した結果、上空125kmのところに、気温が-175℃の極低温の場所があることがわかった。この低温層は、2つの高温の層に挟まっており、夜の大気が優勢な部分が低温になっていると考えられている。この極低温から、二酸化炭素の氷が生じているとも考えられている。
2020年9月、カーディフ大学の研究者を中心とするイギリス・・日本の研究者から成る研究チームがチリのとのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を用いて行った観測から、金星での環境下における地質学的条件や化学的条件のもとでは発生しないと考えられていたホスフィン(リン化水素)が金星の大気上層から検出されたという研究結果をネイチャーアストロノミーにて発表した。ホスフィンの生成要因として、研究チームは太陽光からの光化学反応やによって供給された可能性も検討されたが、検出されたホスフィンの量はそれらの要因では説明できなかった。まだ人類が知りえない未知の化学プロセスによって生成されている可能性が高いとされているが、地球上ではホスフィンは一部のから生成される事が知られているため、金星大気に生命が存在している痕跡である可能性も示されている。アメリカ航空宇宙局(NASA)の長官はこれまでの地球外生命探査において「最大」の発見であるという見解を示している。ただしこのホスフィンの検出報告については、別の複数の研究者グループから疑義が呈されている。同じ観測データを異なるグループが独立して再解析したところホスフィンの特徴は統計的に有意な水準では検出されず、先の報告は誤検出の可能性が高いとの指摘がなされている。
金星の地表は太陽により近い水星の表面温度(平均442 K(169 ℃))よりも高い。金星の地表の気温が高いのは、大気の主成分である CO2による温室効果のためである。
金星の厚い雲は太陽光の80%を宇宙空間へと反射するため、金星大気への実質的なエネルギー供給は、太陽から遠い地球よりも少ない。このエネルギー収支から予測される金星の放射平衡有効温度は227K(-46℃) と、実際の金星の地表温度に比べて約500Kも低温の氷点下となる。それが実際にそうならないのは、膨大な量のCO2によって大気中で温室効果が生じるためで、高密度のCO2による温室効果が510K分の温度上昇をもたらしている。
金星大気の上層部には4日で金星を一周するような強い風が吹いている。この風は自転速度を超えて吹く風という意味でスーパーローテーションといわれる。風速は100m/sに達し、243日で一周する自転速度の60倍以上である。このことが実際に確かめられるまでは、昼の面で暖められた大気が上昇して夜の面に向かい、そこで冷却して下降するという単純な循環の様式が予想されていた。この現象は多くの人々の興味を引くこととなりさまざまな理論が提示され、金星最大の謎のひとつとされていたが、2020年に日本の金星探査機「」の観測データの分析より、この加速機構を担うのが「熱潮汐波」であることが明らかになった。
南北の両極付近で巨大な渦が観測されている。北極の渦は1978年にアメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機「パイオニア・ヴィーナス」によって、南極の渦は2006年に(ESA)の探査機「ビーナス・エクスプレス」によって発見された。ビーナス・エクスプレスは南極の渦の観測を続け、2011年までにその詳細な構造を明らかにした。
一見したところ、金星の大気物質と地球上の大気はまったくの別物である。しかし両者とも、かつてはほとんど同じような大気からなっていたとする以下の説がある。
- 太古の地球と金星はどちらも現在の金星に似た濃厚な二酸化炭素の大気を持っていた。
- 惑星の形成段階が終わりに近づき大気が冷却されると、地球では海が形成されたため、そこに二酸化炭素が溶け込んだ。二酸化炭素はさらに炭酸塩として岩石に組み込まれ、地球上の大気中から二酸化炭素が取り除かれた。
- 金星では海が形成されなかったか、形成されたとしてもその後に蒸発し消滅した。そのため大気中の二酸化炭素が取り除かれず、現在のような大気になった。
もし地球の地殻に炭酸塩や炭素化合物として取り込まれた二酸化炭素をすべて大気に戻したとすると、地球の大気は約70気圧になると計算されている。また、その場合の大気の成分はおもに二酸化炭素で、これに1.5%程度の窒素が含まれるものになる。これは現在の金星の大気にかなり似たものであり、この説を裏付ける材料になっている。
金星では誕生から現在に至るまでに
- 海洋は一度も形成されなかったか、
- 海洋は一度形成されて蒸発し消滅した
のどちらなのかはよく分かっていない。後者では金星では地球と同様に誕生直後に大気中の水蒸気が液化して海を形成し、その後に太陽定数の増加に伴い気温が上昇してある限界を超えたところで海の蒸発が始まり、温室効果を持つ水蒸気が放出されさらなる温度の上昇をもたらす循環に陥る暴走温室効果が歴史のいずれかの時点で発生して現在の状況に至ったと考えられている。前者の場合、金星は水蒸気の強い温室効果のため長期間マグマオーシャンと厚い水蒸気に覆われ続けて、地球と比べて非常にゆっくりとしたペースでマグマオーシャンの固化が進む。大気中の水蒸気は終始海を形成することができず、集積を終えた時点で存在していた水は水蒸気として長期間大気に留まっている間に宇宙空間に散逸し、現在の状態に至ったことになる。2つの歴史のどちらを辿るかは惑星が集積を終え冷却が始まった段階での太陽からの距離によって決定づけられると予想されている。地球はその境界より十分に外側で集積し冷却が始まったため形成直後に海洋を持つ惑星になったと考えられているが、金星の軌道はその境目となる距離に近いところにあり、金星がどちらの歴史を辿ったのかは明確な結論は得られていない。
一方で、地球と金星の大気の違いは地球の月を形成したような巨大衝突の有無によるという考え方があるが、金星の地軸の傾きの原因は巨大衝突だという説もあるため、これらは両立しない。
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地球の公転周期と金星の公転周期の比をとると、365.2425… : 224.701… で、13 : 8 という単純な整数比にかなり近い。そのためスピログラフのような「美しい図形」などと話題にされることがあるが、金星と地球は共鳴関係にない(「尽数関係」ではない)。そのため、百万年あるいは億年の単位で見ると、それぞれに変化している。
金星の赤道傾斜角は177度である。すなわち、金星はがほぼ完全に倒立しているため、ほかの惑星と逆方向に自転していることになる。地球など金星以外の惑星では太陽が東から昇り西に沈むが、(天球の同じ側を金星における北であるとして、東西南北の方角の順を同じとした場合)金星では太陽は西から昇って東に沈む。金星の自転がなぜ逆回転をしているのかはわかっていないが、おそらく大きな星との衝突の結果と考えられている。また、すると金星の赤道傾斜角は3度ほどしか傾いておらず、自転軸が倒立しているとはいえ、軌道面に対してほぼ垂直になっていることになる。このため、地球などに見られるような、気象現象の季節変化はほとんどないと推測されている。
金星の自転速度はきわめて遅く、地球の自転周期が1日であるのに対し、金星の自転周期は地球時間で約243日、すなわちおよそ地球の243日をかけて一回転していることになる。自転の向きは公転の向きと回転方向が逆であるため、自転で一回転する前に金星表面上の同一地点は太陽に正中してしまい、金星の1日は地球の約117日に相当することになる 。
金星の自転周期は、地球とのとほぼ一致している。そのため、最接近の際に地球からはいつも金星の同じ側しか見ることができない(会合周期は金星の5.001日にあたる)。これが何らかの共振のような現象によるものなのか、単なる偶然によるものなのかは詳しくわかっていない。
2012年、欧州宇宙機関(ESA)の探査機ビーナス・エクスプレスから得られたデータにより、16年前より6.5分遅い周期で自転していることが判明した。
金星表面には地球にある大陸に似て大きな平野を持つ高地が3つ存在する。イシュタル大陸はオーストラリア大陸ほどの大きさで北側に位置する。この大陸には金星最高峰であり、高さ11kmのマクスウェル山を含むラクシュミー高原などがある。南側の大陸はアフロディーテ大陸と呼ばれ、南アメリカ大陸ほどの大きさである。さらに南の南極地域にはがある。高地の面積は金星表面の13%を占めるが、このほかに金星表面は中程度の高度を持つ(金星表面の60%を占める)、もっとも低い低地(金星表面の27%を占める)の、計3つの区分に分類されている。
金星には上記の大地形のほかに、「コロナ」と呼ばれるに盛り上がった地域や、中心から放射状に盛り上がりを見せるノバ、状に丸くひろがった台地や、断層や褶曲が入り組むなどの特徴的な小地形が数多く存在する。このうちコロナやノバ、パンケーキ状の地形は火山活動によって形成されたと考えられている。
金星ができたのは約46億年前だが、表面の大半は数億年前に形成されたと見られており、過去に活発な火山活動があったことを示す地形が多く存在する。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の金星探査機ビーナス・エクスプレスの観測により、比較的最近(数百年から250万年前)にも火山活動が起きていたことを示す証拠が得られた。
有名な金星表面のとしてマゼランが観測したデータに基づくものがある。しかしこの画像は、レーダーによって観測された地形データにし起伏を10倍に強調した画像で、実際の金星の地表の様子からかけ離れたものであるため注意が必要である。実際の金星の表面は地球や火星と比較するとむしろ起伏に乏しいとされる。
金星の地形には大陸、地域、平原、、峡谷、モザイク状の地形、断崖、丘、線状地形、火山、溶岩流、火口、山などがあり、おもに各民族の神話における女神や精霊の名が冠せられている。たとえばアフロディーテ大陸、メティス山、金星、地域、、、アルテミス谷(以上ギリシア神話)、ディアナ峡谷(ローマ神話)、イシュタル大陸(バビロニア神話)、ラクシュミー高原(インド神話)、セドナ平原()、(の王妃)などがある。
日本神話や、日本の民話などに由来するものとしては、ユキオンナ・テセラ(雪女)、ニンギョ・フルクトゥス(人魚)、ウズメ・フルクトゥス(天鈿女命)、ヤ金星ガミ・フルクトゥス(八上比売)、セオリツ・ファッラ(瀬織津姫)、ベンテ金星ン・コロナ(弁天)、イナリ・コロナ(稲荷神)、カヤヌヒメ・コロナ(鹿屋野比売)、オオゲツ・コロナ(大宜都比売)、トヨウケ・コロナ(豊受大神)、ウケモチ・コロナ(保食神)、イズミ・パテラ(和泉式部)、オタフク台地(お多福)、オトヒメ台地(説話浦島太郎の)、カムイフチ・コロナ(のカムイフチ)などが金星ある。